NEWS
ニュース彼のことを「世界を代表するグランツーリスモプレイヤーのひとり」として形容した時、それに異を唱える人はおそらくいないだろう。
2020年度のFIA グランツーリスモ選手権におけるネイションズカップ、マニュファクチャラーシリーズの2冠に輝き、2021年に開催されたオリンピック・バーチャル・シリーズでは日本代表として参戦するなど、宮園拓真選手の活躍ぶりは枚挙に暇がない。
そんな同選手がリアルレースに参戦すると聞き、密着取材を敢行した。
誰もが認める“日本最速の男”を待っていた、衝撃の結末をお伝えしていこう。
レース詳報の前に、まずは宮園拓真選手の経歴を改めて紹介したい。
2000年1月、兵庫県尼崎市に生まれた宮園少年は、クルマ好きの父の影響もあって4歳からグランツーリスモを始める。
小学6年生の頃にはハンドルコントローラーを購入し一層のめり込んでいくが、当時は周囲に同じような環境のプレイヤーはおらず、一人で黙々と技術を磨いていった。
その後、大学受験などで離れていた時期もあったが、2018年にグランツーリスモの世界大会が開催されることを知り、再び本格的に練習を行うようになる。
この「グランツーリスモの世界大会」は、主に2つに分かれる。
個人戦である「ネイションズカップ」と、自動車メーカーの一員として戦う団体戦の「マニュファクチャラーシリーズ」だ。
文字通り世界中の強豪選手がひしめく中、宮園選手は2020年度にこの両大会を制した。
さらに、この両大会と同時期に世界規模で開催された「GR Supra GT Cup」でも優勝し、誰もが認める三冠王者となったのだ。
2021年には、世界大会の優勝・入賞経験者が多数出場した激戦の日本予選を見事トップで通過し、オリンピックの関連イベントとして初開催された「オリンピック・バーチャル・シリーズ」で日の丸を背負い、歴史に名を刻んだ。
JEGTにも草創期(2019年~)から参戦し、2020年には個人戦の、2021年にはチーム戦のチャンピオンとなっている。
2022年、大学卒業後の進路として彼が選んだのは、地元兵庫に本社を構えるTOYO TIRE株式会社。
入社後はモータースポーツチームに配属され、自社ブランドやモータースポーツ全体の魅力をPRする仕事にも従事している。
そして間もなくの開幕を控えるJEGT2023シリーズ。トップリーグでは「TC CORSE SPK e-SPORT Racing with TOYO TIRES」の選手として、企業対抗戦では「TOYO TIRE eモータースポーツ部」の監督として参戦する。
さて、いよいよ本題である。
去る8月20日(日)、岡山国際サーキットを舞台に総勢23名のドライバーで開催された「ロードスター・パーティレースⅢ/西日本シリーズ第3戦」。
「レースを楽しむ」ことが趣旨であるパーティレースとはいえ、相当な実力者も多く名を連ねる。
グランツーリスモの頂点に立った男は、果たしてリアルでどれだけの結果を残すのだろうか。
全長3,703mの岡山国際サーキット。晴天の中、午前8時時点で計測された気温は35.9℃。
eモータースポーツにはない“暑さ”という強敵とも戦いながら行われた15分間の公式予選は、なんとトップタイムの1’59.476という最高の結果で終えることとなった。
グランツーリスモプレイヤーの中でも特に「一発の速さ」に定評を持つ宮園選手だが、リアルでもその実力を存分に見せつけた。
それでも、予選後の談話では「所々にミスもあり、完ぺきな内容ではなかった」と言うのだから、まだまだ伸びしろはありそうだ。
「とにかく落ち着いて走行したい。第1目標は無事にクルマを持って帰ることで、その結果表彰台に立ち、それが最上段であれば最高です。」と語る謙虚な姿勢は、どんな場でも変わることはない。
そして迎えた決勝、レースは8周で行われる。
直前に本人も「課題はスタート」と言っていたのだが、その言葉通りスタートはやや出遅れてしまった。
その隙を逃すまいと、2番手スタートの本多永一選手が並びかける。
予選ではわずか0.017秒の差で明け渡してしまった先頭の座をすぐさま奪い返しに来られたが、ここは何とか先頭をキープ。
この本多選手、実は「ロードスター・パーティレース」の最多勝記録(本レース開催前時点で21勝)を持つドライバーであり、この日も優勝候補の筆頭である。
開始早々からのピンチを辛くも乗り越え、レースは2周目へと進んでいく。
次に動きがあったのは3周目。
宮園選手がアトウッドカーブからの立ち上がりでやや加速を鈍らせてしまったところで、本多選手にオーバーテイクを許してしまう。
3番手を走る米川直宏選手も本レースのファステストラップを出した実力者で、宮園選手からすれば前後ともに全く予断を許さない状態となる。
5周目終了時点でのトップから3番手の差は約0.8秒と、まさに緊迫状態のまま終盤に差し掛かった。
残り2周を切った7周目。
後方の米川選手に気を取られた宮園選手のブレーキが遅れてしまい、トップを走る本多選手に衝突。
このアクシデントを回避しようとした3番手の米川選手はスピンし、トップ争いから脱落してしまう。
本多、宮園両選手の順位は変わらず、1位、2位でそれぞれチェッカーを受けたが、その後の審議により宮園選手に30秒のペナルティが与えられ、最終順位は17位。
若き世界王者の真夏の挑戦は、なんとも悔しさの残るレースとなったが、会場で同じ時間を共有した人々に鮮明な記憶を残したことは間違いないだろう。
近年、eモータースポーツのトッププレイヤーがリアルモータースポーツで活躍するケースが頻出している。
特に知られるのは、2016年のグランツーリスモ世界大会の覇者で、現在SUPER GTやスーパー耐久などで飛躍を続ける冨林勇佑選手だろう。
日系ブラジル人のイゴール・フラガ選手は2020年にFIA F3、今年からはSUPER GTにも参戦。
2011年の「GTアカデミー」で9万人の頂点に立ったヤン・マーデンボロー選手にいたっては、その先駆者として数々の成績を残し、今まさに公開中の映画「グランツーリスモ」では主人公として、世界中の人々に感動を与えている。
eモータースポーツをやっていれば誰でもリアルに…などといった安直な道では決してなく、そこに至るプロセスにはもちろん計り知れない努力が必要なのは言うまでもない。
しかし、バーチャルの世界で培った経験がリアルにも大きく活かされることは、様々な事実と結果で証明されている。
多くの人にとって“夢のまた夢”だったレーシングドライバーへの道は、eモータースポーツの発展によって“しっかりと努力すれば掴むことができる夢”に近づいてきたのではないだろうか。
Text:北浦 諭