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ニュース「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2023 KAGOSHIMA」のグランツーリスモ部門の予選で指定車輌となっているAE86。
通称“ハチロク”と呼ばれ多くのファンに愛されるAE86は、1.6Lの高回転型エンジンを軽量なFRパッケージにまとめた、まさに“走り”をとことん楽しめる車種の1つだ。
現在でも希少的価値も含め絶大な人気を集めるハチロクだが、設計は40年前で当時としても、決して最高の技術で作られたクルマだったわけではない。
なぜこれほどまでにAE86がファンを魅了するのか、その魅力に迫ってみたい。
クルマファンのみならず、多くの人から“ハチロク”の愛称で知るAE86。
発売当時の1980年代のスポーツカーは、ハイパワー化を各社で競っていた一方で、小型車は居住性を重視し室内空間を広く確保できるFF化というのがトレンドとなっていた。
そんな中、トヨタは同世代のカローラとスプリンターをFF化しつつも、ライトウェイトスポーツとして一定のファンを獲得していたレビンとトレノはFRのまま残すことを選択。
すべての面で時代の流れに逆らった形になったが、結果的にFRライトウェイトスポーツという選択がAE86に“名車”の称号を与えることになる。
AE86の開発背景や発売当時のスペックを振り返ってみよう。
>>AE86と同様のFRライトウェイトスポーツ“マツダ ロードスター”の紹介はこちら
AE86 カローラ レビン・スプリンター トレノが発売されたのは1983年。
カローラ・スプリンターシリーズとしては5代目、レビン・トレノとしては4代目にあたる。
カローラ・スプリンターのスポーツモデルとして、1972年に初代TE27型レビン・トレノがリリースされてから実に10年以上が経過。
大きな変革が求められる時期にリリースされたAE86は、名機4A-GEU型エンジンを初めて搭載して話題を呼んだ。
4A-GEU型エンジンは、LASRE(Light-weight Advanced Super Response Engine)という総称で呼ばれるトヨタの新エンジン群に属していて、高性能、低燃費、軽量コンパクト、高い応答性をコンセプトに生み出された。
4バルブ化された1.6L直列4気筒DOHCエンジンは、130psを発揮。
ターボの搭載などで高出力が進みつつあった当時として絶対的な出力はやや見劣りするものの、車重わずか900kg超という軽量なボディを走らせるには十分なポテンシャルをもっていた。
また、耐久性にも優れていたことから、チューニングのベースエンジンとしての人気も確立。
2002年のレビン・トレノ生産終了まで、実に20年近く製造され続けた。
AE86のクルマとしての性能は、当時としても決して高いものではなかった。
過給機による高出力化や足回りの性能向上を各社が図るなか、自然吸気エンジンで足回りも先代TE71からの流用とスペックだけを見るとそれほど突出したクルマではない。
しかし、“テンロク”と呼ばれる1.6Lクラスのエンジンを搭載するモデルのほとんどがFFとなり、FRの“クルマを操る”感覚を味わえるのはAE86をおいてほかになかった。
持ち前の軽さをいかしてコーナー奥まで突っ込んで、アクセルワークでクルマを曲げる。
ドライバーの腕さえあれば、ハイパワーターボ車にもついていけるコントロール性の高さに多くのスポーツドライビングファンが魅了された。
また、構造が単純で改造が容易だった足回りや素性のいい4A-G型エンジンは、チューニングによってドライバーのステージに合わせて戦闘力を上げることができた点も、ドライバーを育てるクルマといわれる由縁だろう。
比較的安価にで、しかもスポーティな走りを楽しめるFR車であるAE86は、発売時から若者を中心に人気を集める。
プロレーシングドライバーの土屋圭市氏が、発売当時から現在まで所有していることは有名だ。
また、わずか4年で生産を終了し、後継車のAE92がFF車に移行したことで生産終了後にAE86の魅力が再認識された。
さらに、1990年代後半には、人気漫画「頭文字D」の主人公、藤原拓海の乗るスプリンター トレノの人気が再燃。
はるかに性能の高い車種にAE86で挑んでいくという姿が、多くのファンの心を掴んだ。
漫画そのものも火付け役となったドリフトブームと相まって、再び“ハチロク”に注目が集まった。
そして、現在では海外での日本製スポーツカーブームの影響も強く受け、状態のいい個体は1,000万円前後で取引されるなどその人気はとどまることを知らない。
比較的新しい車種のほうが充実しているグランツーリスモ7だが、AE86は3車種も収録されている。
3ドアハッチバックのレビン・トレノそれぞれに加え、「頭文字D」の作者しげの秀一氏の乗るスプリンター トレノが特別仕様車として登場するあたりが心憎い。
グランツーリスモ7に登場するAE86を紹介しよう。
>>AE86 S.Shigeno Versionで挑む国体グランツーリスモ7部門の攻略法はこちら
AE86以降のレビンとトレノは、基本的にどちらもほぼ同じスペックで展開されている。
しかし、レビンにするかトレノにするかという選択は、ファンにとっては重要なポイントだ。
特にAE86は、角目のレビンに対してリトラクタブルライトのトレノと見た目も大きく異なるため、グランツーリスモ7でAE86 レビンとトレノを選べるようになっているのはありがたい。
なお、兄弟車のレビンとトレノだが、名称の由来も兄弟らしく密接に関係のあるものになっている。
“LEVIN”は英語(古語)で“稲妻”を意味し、“TRUENO”はスペイン語で“雷鳴”を意味する言葉だ。
なぜスペイン語にしたのかは不明だが、“稲妻”と“雷鳴”とはコーナーに鋭く切り込んでいく両車の特徴をよく表したチョイスではないだろうか。
AE86を、“ハチロク”としてクルマ好き以外にまで広めたのは、漫画「頭文字D」の大ヒットだ。
一大ブームを巻き起こした原作者のしげの秀一氏がプライベートで所有するAE86が、“S.Shigeno Version”として収録されている。
実車の詳細な仕様は不明だが、カーボン製ボンネットやAE101の20バルブの4A-GEにグループA仕様のパーツを組み込んだチューニングエンジンが搭載されているとの情報もあった。
グランツーリスモ7上のスペックは、9,500回転で210psを発生。
漫画内での名セリフ「11,000回転までキッチリ回せ」とまではいかないものの、825kgと軽量化されたボディと合わせて、AE86らしい軽さをいかした走りを存分に楽しめる仕様だ。
クルマファンの方ならご存じかと思うが、トヨタは2012年に“86”という車名の新型スポーツカーを販売している。
「直感ハンドリングFR」というまさにAE86を彷彿とさせるコンセプトを掲げ、型式名をそのまま車名に流用とする異例のネーミングだ。
トヨタ自身が愛称の“ハチロク”を追認した形で、新型車の車名に使用したあたりにAE86がいかにトヨタにとって大切な車種かがうかがえる。
また、JEGTトップリーグのオフライン大会も開催された2023年の東京オートサロンで、トヨタはカスタマイズした2種類のAE86を出品。
1つはEV仕様のカローラレビン、そしてもう1台は水素エンジン仕様のスプリンタートレノだ。
しかも、水素エンジンのベースエンジンには往年の4A-GEUを使用している。
各社が最新車種を出品するなか、あえてAE86をベースにサスティナブルカーを制作するところに、トヨタのAE86に対する愛情を感じた。
Text: 渡邉 篤
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