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ニュース自動車の駆動輪には、通称“デフ”と呼ばれる“ディファレンシャルギア”(差動装置)が取り付けられている。
旋回時の内外輪の回転差を吸収する装置なのだが、仕組みやそもそも存在を知らない人も少なくない。
また、一部のスポーツカーやレーシングカーには、“LSD”(リミットスリップディファレンシャルギア)と呼ばれる特殊な“デフ”が装備されており、グランツーリスモでもLSDの追加やセッティングができる。
初心者の方はもちろん、多少のクルマ好きでも理解があいまいになっていることも多い、デフとLSDについて詳しく解説しよう。
グランツーリスモでLSDセッティングをする前に、まずはディファレンシャルギア(以下デフ)の役割を理解しておこう。
デフは自動車の左右駆動輪のあいだに取り付けられており、複数のギアを金属のハウジング内に収めた装置だ。
機構そのものの説明は専門のWebサイトや文献に譲るとして、なぜ必要な装置でどのような動作をするのかという観点で解説するので、各自クルマの動きを想像しながら読み進めてほしい。
デフは、クルマが旋回する際に生じる内輪(コーナー内側の車輪)と外輪(コーナー外側の車輪)の差を吸収する装備だ。
クルマが旋回する場合は、内輪よりも外輪のほうが走る距離が長くなるため、外輪を速く回転させなければならない。
直進時の左右の回転配分が5:5だとすると、コーナリング時は内側の回転配分を少なくして3:7にするイメージになる。(数値はコーナーの曲がり具合による)
複数のギアを組み合わせ内外輪の回転に差が生まれるように動作することで、コーナーをスムーズに曲がることができるのだ。
デフは通常走行では優れた装置だが、スポーツ走行やレースではコーナリング時にやっかいな問題がある。
たとえば、レーススピードの遠心力で内側の車輪が浮いてしまった場合、車輪を回す力(トルク)は浮いた車輪側にすべて配分されてしまうので空転して前に進まなくなるのだ。
デフは動きの少ない内輪側の回転を、外輪側に割り振るように動作する。
つまり、片輪のみ接地した状態でもう片方が宙に浮いてしまうと全ての回転が浮いた側の車輪に配分されてしまい、思うような加速を得ることができない。
そこで、通常のデフの弱点を補い、一部のスポーツカーやレーシングカーに装備されているのが“LSD”だ。
LSDとはリミットスリップディファレンシャルの略で、デフ本来の差動を制限する機構が組み込まれている。
アクセルオンなど特定の条件下でデフの働きを抑えたり、そもそもロックしてまったく効かなくしたりすることで片方のタイヤの接地が不十分でも、もう片方のタイヤにトルクが伝わるようにする。
なお、LSDにはおもに3つの方式があり、方式によってデフの動きを抑制する強さが違う。
もっとも効き目の強いのが機械式LSDで、グランツーリモに登場するのもこの方式。
ほかの2つはトルセン式とビスカス式と呼ばれるもので、機械式に比べると効き目がマイルドなことからスポーツカーに純正採用されていることも多い。
グランツーリスモに登場するLSDはすべて機械式で、1ウェイ、2ウェイ、フルカスタマイズの3種が用意されている。
フルカスタマイズLSDを装備した際に調整できる3項目について詳しく紹介しよう。
なお、1ウェイ、2ウェイLSDでは、数値は固定となっていて調整できない。
>>LSDセッティングの上段にある足回りセッティングについて知りたい方はこちら
機械式1ウェイLSDとは、加速時にのみデフの動作を抑制する。
コーナー進入時にはデフが動作するため旋回性を発揮できる反面、アクセルオンオフでクルマの挙動が変わるため、コントロールが難しい点がデメリット。
一方、2ウェイは、加速時に加えて減速時もデフに制限をかけるので、クルマの挙動が比較的安定する。
ただし、コーナー進入時にもデフの抑制効果が働くため、内外輪差を吸収しにくくアンダーステアリング(ハンドル操作よりクルマの曲がる量が少ない状態)になりやすい。
なお、フルカスタマイズLSDを選べば、加速時減速時それぞれの効き具合を細かく調整できる。
また、現実世界では1ウェイと2ウェイの中間として、1.5ウェイという機械式LSDもあり、減速時の効き具合がややマイルドでアンダーステアリングになりにくくコントロールしやすい。
イニシャルトルクとは、機械式LSDのデフを制限する機構にあらかじめかけられた力のことだ。
項目としては1番上に表示されているが、一旦初期値のまま先に加減速時の効きを調整したあとで調整したい。
イニシャルトルクを高くすると、LSDが鋭く効いてデフの動作を抑制する。
わずかなアクセル操作にも反応するので思い通りのタイミングでデフをロックできる一方、挙動はピーキーになるのでシビアな操作が必要だ。
逆にイニシャルトルクを低くすると、デフを抑える力が作用するまでに時間がかかり効き始めをマイルドにすることができる。
加速時の効き具合を強くすると、コーナーで内輪の荷重が抜けた状態からでも加速ができるため、脱出速度を稼げる。
一方で、姿勢が不安定な状態でデフが完全にロックしてしまうと、挙動を乱してスピンにも繋がるので注意したい。
コーナー立ち上がり時に前に進む力が不足していると感じたら値を上げ、逆にアクセルオンでクルマが不安定になるようなら効きを弱める方向に調整しよう。
減速時のLSDの働きはクルマの安定性に影響する。
効きを強めるとアクセルオン時との差が少なくなり挙動が安定する一方、曲がりにくいクルマになってしまう。
コーナー進入時にアンダーステアだと感じたら効きを弱める方向、挙動が乱れやすい場合は強める方向に調整するのが基本だ。
一般的には、加速時の効きよりも弱めの方向に調整すると良い結果が得やすい。
ただし、減速時の効きの調整は分かりにくいので、まずは加速時の効きを優先的に調整しよう。
実車でLSDを調整する際は、車体から外しさらにLSD自体の分解も必要だ。
しかし、グランツーリスモなら、画面上でスライダーを動かすだけで簡単に違うセッティングを試せる。
最初は数値と挙動の変化が理解できなくても、ぜひさまざまなLSDセッティングを試してクルマの理解を深めてほしい。
LSDセッティングが決まれば、コーナリングスピードが一気に向上するはずだ。
また、LSDのセッティングが重要な場面はレースだけではない。
実車、グランツーリスモ問わず、後輪を滑らせて走らせるドリフト走行をする際にもLSDは欠かせない。
レースやタイムアタックに飽きたら、セッティングを変えて気分転換にドリフト走行をすぐに楽しめる点も、グランツーリスモでドライビング体験をする大きなメリットだろう。
Text: 渡邉 篤
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