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ニュースピットアウト時のポジション逆転は、コース上でのオーバーテイク同様に手に汗握る瞬間だ。
しかも、コース上でポジションアップを狙うことに比べて、接触やコースアウトといったリスクが少ない。
今回は、レースで重要なタイヤ戦略について、実際のJEGTトップリーグでの事例をまじえて詳しく解説しよう。
F1やスーパーGTといった実車のレースでは、タイヤ選択が非常に重視され勝敗を大きく分けるポイントとなる。
リアルなドライビング体験ができるグランツーリスモでは、タイヤのコンパウンドが複数用意されており、ライバルよりも有利にレースを進めるため、まずは、タイヤの違いについて基本的なことをおさらいしておきたい。
>>タイヤの違いと戦略について【JEGT認定ドライバー大田 夏輝】
タイヤの“コンパウンド”とは、トレッド面(接地面)に使用されている複合ゴムのことを指す。
本来“混合物”を意味する「コンパウンド」という言葉が使われる理由は、複数の素材を混ぜ合わせて作られているためだ。
タイヤの特性は、剛性や溝のデザインによっても左右されるが、混ぜ合わせる素材や配合率によって変わってくる。
溝のないレーシングタイヤの性能の違いは、使用されているコンパウンドによる影響が大きい。
グランツーリスモのドライ用タイヤは、コンフォートタイヤ・スポーツタイヤ・レーシングタイヤの3種類があり、それぞれにソフト、ミディアム、ハード、3種類のコンパウンドが用意されている。
さらに、レーシングタイヤにのみ、浅溝のインターミディエイトとウェットという2種類の雨天用タイヤがある。
ソフトタイヤは路面への食いつきがよく、もっとも高いグリップ力を発揮できる一方、摩耗しやすいため耐久性は低い。
逆にハードタイヤは長い距離を走行できる反面、グリップ力が低く、ミディアムタイヤは両者のちょうど中間といった特性だ。
グランツーリスモの大会だけでなく、いつでも参加できるデイリーレースの中には、周回数が多く途中でタイヤ交換を必要とするケースもある。
レースで結果を残すには、速いラップタイムで走るドライビングテクニックと同様に、タイヤ戦略も重要なポイントだ。
オートポリスで行われたJEGTトップリーグ Rd.2のレースにおいて、見事優勝を決めた#55 ARTAのタイヤ戦略についても紹介していこう。
>>タイヤ戦略が結果を左右したJEGT2022トップリーグRd.2のレース詳細はこちら
グランツーリスモの大会をはじめ、デイリーレースでも実力に応じてクラス分けがされている。
ほぼ同じ実力のドライバー同意がレースを戦う場合、相手がミスをしない限りコース上でのオーバーテイクは難しい。
そこで重要になってくるのが、タイヤ交換をいつするかという戦略だ。
タイヤ交換のタイミングを工夫すればライバルの前に出ることもできるため、レース前にはしっかりと戦略を立てておきたい。
タイヤ戦略のお手本のようなレースとなったのが、2022年12月3日開催された、JEGT2022シリーズトップリーグのRd.2だ。
決勝ヒート2、3番手スタートとなった#55 ARTAだったが、参加チーム中唯一2本目にハードタイヤという戦略をとって見事に初優勝を決めた。
前半のコース上が混雑している状況はミディアムタイヤでレースペースについていきつつ、2本目としてハードタイヤを選択。
ハードタイヤを1周のみ使用すると、すぐにソフトタイヤに交換し、全チーム中で一番早くすべてのピット作業を終えた。
ソフトタイヤへの交換後は、前走車のいない状態でコースに復帰。
ソフトタイヤのグリップ力をいかして、ファステストラップを記録しながら順調にラップタイムを重ねる。
全チームがピット作業を終えると、コース上で先頭を走る#777 D’Station Racingにわずかに届かなかったものの、僅差の2番手に食い込んだ。(レース後のペナルティによって結果は優勝)
スタート時にトップとの間隔が空いてしまうローリングスタートで3番手ということを考えると、コース上のタイムは実質的には一番速かったことになる。
タイヤ戦略を立てる際は、そのセオリーを理解しておくことが重要だ。
タイヤによるタイムの違い、コースによるピットロスタイム、どのタイミングでどのタイヤで走ればもっとも効率がよいかなど、基本的なことをしっかりと把握しておこう。
使用義務があるタイヤそれぞれのタイムの差とその落ち幅、そして、ピットレーン走行も含めたタイヤ交換時にかかるピット作業時間を事前にシミュレーションしておこう。
たとえば、ソフトタイヤとハードタイヤでラップタイムに2秒の差があると仮定しピット作業時間が25秒の場合、残り周回数が13周以上あれば、ピットロスを含めてもソフトタイヤに交換したほうが全体の時間は短くなることになる。
レースをより有利に進めるためのセオリーは、レギュレーション上の使用義務のあるタイヤのうち、やわらかい方のタイヤをできるだけ長く使うことだ。
レース全体の周回数とピット回数を考えて、1番やわらかいタイヤでどうすれば多くの周回を重ねられるかを考えよう。
ただし、複数回のタイヤ交換が必要な場合は、ピットロスも含めた全体のタイムでタイヤ交換回数も考える必要があるため、戦略の立て方がやや複雑になる。
コース上でのオーバーテイクが難しいレースでは、人と同じタイヤ戦略をとっていてもなかなかポジションを奪えない。
ライバル車のタイヤ戦略を予想しながら、自身ができるだけベストラップを重ねられるタイヤ戦略を立てよう。
タイムの出せるやわらかいコンパウンドを使う際は、できるだけ前走車のいない状況でタイムを稼ぐことが重要となる。
逆にタイムの出ない固いタイヤはトラフィックが発生しやすい場面で使用し、ライバル車とのタイム差を最小にしておきたい。
たとえば、自分より前のポジションにいるクルマがタイムの出ないハードタイヤを使用している場合、ソフトタイヤを選択しても思うようにラップタイムは伸ばせない。
逆に、ハードタイヤでの走行でライバル車に大きく差を開けられてしまってはポジションを奪えなくなってしまう。
コース上でのオーバーテイクが難しい場合、タイヤ交換のタイミングを変えることでライバル車の前に出る作戦がアンダーカットとオーバーカットだ。
アンダーカットとは、ライバル車よりも早くピットインしてフレッシュな状態のタイヤでより速いラップタイムを出し、最終的に前に出ようとする作戦。
オーバーカットはこの逆で、ライバル車がピットインをしているあいだ、新しいタイヤがあたたまって本来のグリップ力を発揮するまでにできるだけコース上にとどまってタイムを稼ぐ作戦だ。
どちらも、コース上で直接バトルをするロスがないため、タイヤの摩耗状況や直近のラップタイムによって取るべき戦略は変わってくる。
ただし、実車のレースと違ってアウトラップからタイヤ性能が十分に発揮されるグランツーリスモでは、アンダーカットのほうが有利になることが多い。
タイヤ戦略を立てるには、複数の条件を踏まえて綿密に計算をする必要がある。
いきなりレースに臨んでも、最適なタイヤ選択と交換タイミングを見極めるのは難しい。
カスタムレースやロビーで、実際に参加するレースと同様の設定をおこない何度もシミュレーションをしておこう。
また、グランツーリスモ内のデイリーレースでは、タイヤ交換が必要なレースが開催されていることもあるので、レース状況に応じた臨機応変な作戦変更の練習も可能だ。
さまざまな場面を想定してタイヤ戦略を立て、ドライビングテクニック以外でもぜひライバルに差をつけてほしい。
Text: 渡邉 篤