NEWS
ニュースグランツーリスモのカスタマイズ画面では、サスペンションだけでも多くの項目の調整ができる。
しかし、広いクルマの知識がないと、それぞれの項目をどうセッティングすべきかを理解するのは難しい。
そこで、今回はサスペンション項目のなかでも、走りに直結する「固有振動数」と「減衰力」、「車高」に絞って詳しく解説したいと思う。
基本的な仕組みがわかると、セッティング作業自体も楽しめるはずだ。
グランツーリスモは、実車同様の挙動をリアルにシミュレーションしているため、各パーツの果たす役割も実車と同じ。
グランツーリスモで「車高」「固有振動数」「減衰力」のセッティングをおこなう前に、「減衰力」を発生するダンパーと「固有振動数」をもつバネについて、基本的な仕組みと役割を理解しておこう。
また、この2つは「車高」の調整にも密接にかかわってくる。
バネ(スプリング)は、荷重変化や路面からの衝撃を吸収することが大きな役割で、受けた力を縮むことで吸収し車体への影響を軽減する。
また、クルマを支え、路面にタイヤを押しつけることもバネの役割だ。
車体とタイヤの間に挟まるバネの力でタイヤを路面に密着させ、駆動輪であればトラクション、操舵輪(前輪)であればステアリングの動きを、路面に最大限伝える働きをする。
「固有振動数」という数値で表されるバネの“固さ”は、吸収できる衝撃の大きさに関係してくる。
“やわらかい”バネであれば、微細な衝撃にも反応する一方、過大な衝撃だと縮みきってしまい吸収しきれない。
“固い”バネだと大きな荷重変化も吸収できるため、車体に影響を与えない一方、細かな段差や起伏などで生じる衝撃の反応は鈍くなるため車体が跳ねやすくなる。
ダンパー(ショックアブソーバー)は、バネの受けた力を吸収して動きを制御する働きをもっている。
バネは外部から受けた力を保存し、力がなくなるまで一定時間振動(伸縮)を続ける特性がある。
つまり、仮にクルマにバネしかなければ、段差を乗り越えた衝撃でいつまでも車体が上下動を続けてしまい、コントロールするどころではない。
そこで、ダンパーの登場となる。
ダンパー内部にはオイルが封入されており、オイルの流量を穴(オリフィス)で制限したピストンによって、バネの動きを制御する抵抗が生み出される。
この抵抗が「減衰力」で、振動を続けようとするバネの動きをダンパーの抵抗によって抑え込んでしまうことで、荷重変化や段差で受けた力の影響を短時間に収束させるのだ。
ダンパーの固さは、ピストンの動作速度の違いによって決まってくる。
オリフィスを大きくして抵抗を少なくすれば、小さい力でもダンパーが速く動くため、結果として“やわらかい”と表現される。
ダンパーが速く動くということは、それだけバネの動きへの追随性が高くなるが、バネの動きを抑制する力も弱いため振動が収まりにくい。
一方で、ダンパーの抵抗が大きく動きが“遅い”いわゆる“固い”状態だと、バネへの力の入力に対してゆっくりと反応するため早期にバネの振動を抑えることが可能だ。
ただし、“固い”ダンパーの場合は、衝撃を吸収するバネの動きも抑制するため、ゴツゴツとした乗り心地になってしまう。
車高は安定性にかかわるポイントで、可能な範囲でできるだけ低いほうがクルマの挙動が安定する。
車高が低ければ重心位置が下がり、それだけクルマの姿勢変化が少なくなるためだ。
しかし、「可能な範囲で」と書いたことには理由があり、限界を超えて低くするとかえって不安定になってしまう点には注意したい。
車高を下げ過ぎるとサスペンションの可動範囲が制限されることで、路面からの衝撃や荷重変化によるクルマの沈み込みに十分対処できなくなってしまい、グランツーリスモ7に限って言えばハンドルの切れ角にも影響を与える。
また、路面と車体の距離が近くなることで車底部をこする可能性も高くなり、クルマの姿勢を乱す要因となる。
「車高」「減衰比」「固有振動数」の調整はどれも密接に関係するため、それぞれの役割を理解した上で調整することが重要になる。
まずは、純正(デフォルト)の状態で運転してみて、どこに不満を感じるかを探ろう。
なお、各項目名にカーソルを合わせて「□」ボタンを押すと細かい説明を見ることができるので、よくわからなくなった際は活用してもらいたい。
セッティング画面で最上段に表示されているため最初に記載するが、実際のセッティングでは、サスペンションセッティングの最後に車高を調整してほしい。
理由は、サスペンション各部が最大限稼働できる車高を確保する必要があるためだ。
車高は低いほうがクルマの安定性が高まるため、基本的には下げる方向で調整する。
ただし、上記の通りサスペンションセッティングや路面状態にもよるので注意してほしい。
また、前後バランスも車高セッティングでは重要なポイント。
セオリー通りだと、前下がりにすると旋回性能が上がり、後ろ下がりにするとトラクションがかかりやすくなるが、車種の特性やサスペンション設定によるので一概にはいえない。
ダンパーの「減衰比」は、「縮み側」「伸び側」それぞれで調整できる。
やや複雑になるが、減衰力によってバネの動きを制御するという考え方に立てば、ある程度動き方を想像しながら調整ができるはずだ。
「減衰比」は、高くするほどダンパーの動きが遅くなり、いわゆる“固い”ダンパーとなる。
「縮み側」はバネが吸収する路面や荷重の変化への反応速度を調整する項目。
値を高くするほど細かな変化に対する不要な車体の動きが起きなくなるが、バネの衝撃吸収を阻害するためクルマが跳ねやすくなる。
「伸び側」は、バネの反発力の制御をおこなう項目。
値を大きくすれば、バネの振動を早期に収めてクルマを安定させられる反面、もとの状態に戻るまで時間がかかり、次の動作を機敏におこなうことができない。
コースを早いタイムで攻略することを目的とするレーシングカーでは、乗り心地を考慮しなくていいため、基本的には減衰比をあげてダンパーの反応を遅くする方向へ調整する。
ダンパーの反応を遅くすると、バネによるクルマの姿勢変化が少なくなるためクイックな挙動になるためだ。
一方で、吸収しきれなかった衝撃を車体で受け止めてしまうことになり、挙動を乱しやすくなる点には注意したい。
的確な荷重移動をおこなえて、挙動を乱さないぎりぎりのところを狙ってセッティングしよう。
アクセルやステアリング操作への反応が遅いと感じたら、減衰比をあげる方向、つまりダンパーの動きを遅く調整する。
逆に、加速時にタイヤが空転する、ステアリングを切っても曲がらないいわゆる“アンダーステア”といった状態であれば減衰比を下げ、バネの動きに対するダンパーの応答性をあげ、“やわらかく”調整することが必要だ。
前後については、一般的なFR車両の場合だと、ステアリングのフィーリングは前側、トラクションのかかり方は後ろ側で調整する。
ただし、車両特性や駆動方式によって異なるためさまざまなセッティングを試してみてほしい。
「固有振動数」は、バネの“固さ”を調整する項目。
「固有振動数」を高くするほど、“固い”バネということになる。
基本的には荷重移動のフィーリングと路面状態に応じて調整していく。
「固有振動数」を下げると、それだけ路面から受ける衝撃を吸収しやすくなるため、車体が安定するが、その分アクセルやステアリング操作による力も吸収されるのでクルマの動きは緩慢になる。
「減衰力」の調整と同様に、路面の影響を最小限にとどめつつ、的確に力を伝えられる範囲で“固く”する方向に調整していこう。
前後バランスについての考え方は「減衰力」と同様だが、「固有振動数」の場合は、基本は前後の値をそろえておき、目的に応じてどちらかを調整する。
グランツーリスモに限らず、実車でもサスペンションセッティングは難しい。
なかでも、今回紹介した「減衰力」と「固有振動数」は相互に関係するため、それぞれの役割をしっかりと理解して試行錯誤しながら煮詰めていかねばならない。
レースで速く走るための作業ではあるが、セッティングの違いによるクルマの挙動変化を手軽に味わえることもグランツーリスモの楽しみ方の1つだ。
実車で「固有振動数」を変更しようと思うと、ジャッキアップしたうえでバネが組み込まれたダンパーを取り外し、さらにダンパーを分解してバネを取り外さなければならない。
しかも、交換用のバネも複数用意しておく必要もある。
さまざまなセッティングで走ってみて、グランツーリスモだけではなく、ぜひクルマそのものへの理解も深めてほしい。
Text:渡邉 篤