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ニュースText:渡邉 篤
FIAが主催する自動車競技の国際大会「2022 FIA Motorsport Games」eスポーツ部門の日本代表選考会が、国内最高峰のeモータースポーツリーグを開催するJEGTの主催、JAF(一般社団法人日本自動車連盟)の共催で2022年9月20日におこなわれた。
日本代表を決定する本大会は「2022 FIA Motorsport Games -ESPORTS- Japan Qualifier Produced by JEGT」(以下、FIA MG 日本代表選考会)という名称で開催。本大会の優勝者は、2022年10月26日からフランスのマルセイユで開催される「2022 FIA Motorsport Games」eスポーツ部門に日本代表として派遣される。
なお、世界につながる熱戦の模様は、実況に鈴木学氏、司会進行はスポーツDJAlee氏とJEGTの公式戦を盛り上げてくれている両氏に加え、スペシャルゲスト解説として普段JEGTトップリーグに参戦している山中選手(#01 EVANGELON e-RACING with 広島マツダ)を迎えるという豪華顔ぶれで放送された。
FIA MG 日本代表選考会のレースレギュレーションは普段のJEGTリーグ戦とは大きく異なる。
使用ソフトやマシンセッティング、決戦の舞台となるサーキットを中心にまずはレギュレーションをチェックしていこう。
2022 FIA Motorsport Games E-Sportsに出場する日本代表は、5分間の予選と30分の決勝からなる1レースのみで決定される。
しかも、代表となれるのは参加15名中1名のみという狭き門だ。
代表の座を掴み取るためには、5分の予選でベストラップを出す高い集中力と、30分のレースをミスなく走り切る安定感の両面が求められる。
日本代表を決定する舞台となったのは、世界戦が開催されるフランス マルセイユ近郊に実在するポール・リカール・サーキット。
15のコーナーを有する全長5,842kmのサーキットで、最大の特徴は「ミストラル・ストレート」と呼ばれる1.8kmに及ぶバックストレートだ。
一方で第1セクターと第3セクターは、タイトコーナーを含むテクニカルセクションとなっていて、ドライバーとマシンの総合力が試されるレイアウトとなっている。
代表選考会に使用されるソフトはPC版の「Assetto Corsa Competizione」(以下ACC)で、JEGTで使用されているグランツーリスモSPORTとは、プラットフォームもソフトも異なる。
ACCはコースの高い再現性が特徴で、レーザースキャンによって細かな路面の凹凸まで精密に再現されている。
また、タイヤの内圧やダウンフォースなど細かなセッティングも可能で、今回の代表選考会でもセッティングを自由にできることから、各車がどんなセッティングでレースに臨むのかという点も注目ポイントだ。
なお、今回の代表選考会ではPC版が使用されたが、PlayStation®5、 PlayStation®4版もあるので気になる方はぜひチェックしてみてほしい。
レースレギュレーションは以下の通り。
また、ドライバーの本人確認のため参加者にはZoomによるカメラ中継が義務付けられている。
開催形式 | オンライン形式 |
使用ソフト | Assetto Corsa Competizione(PC版) |
使用コース | ポール・リカール・サーキット |
使用マシン | グループ3の指定車両から選択 ●Aston Martin AMR V8 Vantage GT3 2019 ●Audi R8 LMS EVO II 2022 ●Bentley Continental GT3 2018 ●BMW M4 GT3 2022 ●Ferrari 488 GT3 Evo 2020 ●Honda NSX GT3 Evo 2019 ●Lamborghini Huracàn GT3 ●McLaren 720S GT3 ●Mercedes-AMG GT3 2020 ●Porsche 911II GT3 R |
セッティング | フリー |
予選 | 5分間のタイムアタック |
決勝 | 30分間(1回のピットストップ義務あり) |
予選は制限時間5分のタイムアタック。
ラップタイムは2分弱と予想されるため、アウトラップを差し引くと最大で2周のアタックが見込まれる。
出走する顔ぶれを見ると、コースとの相性から「McLaren 720S GT3」を選択する選手が目立つ。
ゲーム画面上で予選制限時間のカウントダウンが始まると同時に、決勝のスターティンググリッドを決める予選がスタート。
予選開始と同時に先頭で飛び出したのは#12 武藤選手で、続いて#15 山本選手、後続車両も一定の間隔で混乱なくピットを後にした。
全車一斉の予選タイムアタックで注目されたのがスリップストリーム戦略だ。
スリップストリームを使うことでストレートスピードを伸ばせる一方、前走車による気流の乱れによって姿勢を崩すこともある。
アウトラップを見る限り、一部を除いてほとんどの参加者が前走車との車間を開けており、スリップストリームを使わないという選択をしたようだ。
順調にアウトラップを終えた#12 武藤選手が1番手でアタック。
その1周目でいきなりの1:53.680という好タイムをマークし、後続選手にプレッシャーをかける。
#12 武藤選手のタイムをターゲットタイムに、各選手が果敢にアタックをするが、タイム更新には至らない。
そして迎えた武藤選手2回目のアタック。
最初のタイムを約0.4秒更新する1:53.212を記録。
2番手タイムの#15 山本選手との差を1秒以上にまで広げた。
その後、タイム更新はなく予選は終了。
#12 武藤選手がポールポジションを獲得、#15 山本選手が2番手に付けこの2台がフロントロー。
3番手には#6 大崎選手で、戦前の予想通り「McLaren 720S GT3」がトップ3を独占した。
4番手には「Mercedes-AMG GT3 2020」を使用するJEGT認定ドライバーの#16 宮園選手が続いた。
Pos | Num | Driver | Car | Time | GAP |
PP | 12 | 武藤 壮汰 | McLaren 720S GT3 | 1:53.212 | – |
2nd | 15 | 山本 康暉 | McLaren 720S GT3 | 1:54.235 | +1.023 |
3rd | 6 | 大崎 悠悟 | McLaren 720S GT3 | 1:54.652 | +1.440 |
4th | 16 | 宮園 拓真 | Mercedes-AMG GT3 2020 | 1:54.807 | +1.595 |
5th | 10 | 能條 裕貴 | McLaren 720S GT3 | 1:55.085 | +1.873 |
6th | 1 | 岡田 衛 | Honda NSX GT3 Evo 2019 | 1:55.362 | +2.150 |
7th | 2 | 白川 有輝 | McLaren 720S GT3 | 1:55.442 | +2.230 |
8th | 4 | 岩田 晶 | Honda NSX GT3 Evo 2019 | 1:55.480 | +2.268 |
9th | 13 | 菅原 幹 | Aston Martin AMR V8 Vantage GT3 2019 | 1:55.862 | +2.650 |
10th | 3 | 野島 俊哉 | Aston Martin AMR V8 Vantage GT3 2019 | 1:55.885 | +2.673 |
11th | 14 | 柳瀬 大生 | McLaren 720S GT3 | 1:56.395 | +3.183 |
12th | 8 | 合谷 征勝 | Audi R8 LMS EVO II 2022 | 1:56.640 | +3.428 |
13th | 17 | 前川 将輝 | Lamborghini Huracàn GT3 | 1:59.622 | +6.410 |
14th | 5 | 南部 勇樹 | Mercedes-AMG GT3 2020 | 2:11.910 | +18.698 |
15th | 11 | 篠坂 咲太 | McLaren 720S GT3 | No Time | – |
決勝レースは30分で、1回のピットストップ義務が課せられている。
圧倒的なタイムでポールポジションを獲得した#12 武藤選手が逃げるのか、2位以下の選手の巻き返しがあるのかという点が見どころだ。
レースは、ローリング方式でスタート。
トップの#12 武藤選手、#15 山本選手は危なげないスタートで抜け出したものの、3番手#6 大崎選手と4番手#16 宮園選手が1コーナーの飛び込みでサイドバイサイドとなるなど、後続車はかなりの混戦模様。
各選手のこのレースへかける想いの伝わってくるスタートとなった。
しかし、ポール・リカール・サーキット名物の「ミストラル・ストレート」に差し掛かる頃には縦長の隊列になり、トップから5番手の#1 岡田選手までのトップグループと6番手#4岩田選手以降のグループの差が広がり始める。#12 武藤選手はオープニングラップから快調な走りを見せ、ミストラル・ストレート後のターン8「シーニュ」、ターン9とコーナーを抜けるたびに後続グループとの差を広げていく。
2周目に入ると、オープニングラップでは食らいついていた2番手#15 山本選手との差も開き始め、#12 武藤選手が独走態勢に持ち込む。
後続の選手はなんとかこれ以上離されないようにしつつ、ピットストップでの逆転を狙いたいところだ。
レース開始から7分30秒が経過したタイミングでピットオープンになると、最初にピットインをしたのは#16 宮園選手。
4番手の#1 岡田選手との争いを避けて、単独でトップ追撃のチャンスを狙う格好だ。
その後、トップを快走する#12 武藤選手は7周目でピットインをすると、2番手を走る#15 山本選手、3番手#6 大崎選手も同一周回で続けてピットインとなった。
見かけ上トップでコース上に残っていた#17 前川選手がピットインをすると、結局#12 武藤選手は逆転されることなく1番手にポジションを戻す。
しかも、2番手#15 山本選手との差は6秒近くまで広がっていた。
後続では細かな順位の変動はあったものの、このレースで重要なのは代表となれるトップのみだ。
燃料の搭載量やドライビングミスなどの不確定要素での順位変動のみが危惧されるなか、レースは30分が経過してファイナルラップに突入。
結局、終始安定した走りと圧倒的な速さを見せた#12 武藤選手がポールトゥウィンを決め、「2022 FIA Motorsport Games」eモータースポーツ部門日本代表の座を勝ち取った。
2番手には#15 山本選手が続いたが13秒近くもの大差。
3番手に#6 大崎選手、4番手にはJEGT認定ドライバーの意地を見せて#16 宮園選手が入った。
Pos | Num | Driver | Car | Time | GAP |
PP | 12 | 武藤 壮汰 | McLaren 720S GT3 | 31:23.764 | – |
2nd | 15 | 山本 康暉 | McLaren 720S GT3 | 31:36.728 | +12.964 |
3rd | 6 | 大崎 悠悟 | McLaren 720S GT3 | 31:44.491 | +20.727 |
4th | 16 | 宮園 拓真 | Mercedes-AMG GT3 2020 | 31:55.203 | +31.439 |
5th | 17 | 前川 将輝 | Lamborghini Huracàn GT3 | 32:04.413 | +40.649 |
6th | 1 | 岡田 衛 | Honda NSX GT3 Evo 2019 | 32:05.074 | +41.310 |
7th | 13 | 菅原 幹 | Aston Martin AMR V8 Vantage GT3 2019 | 32:09.959 | +46.195 |
8th | 4 | 岩田 晶 | Honda NSX GT3 Evo 2019 | 32:14.439 | +50.675 |
9th | 10 | 能條 裕貴 | McLaren 720S GT3 | 32:22.822 | +59.058 |
10th | 8 | 合谷 征勝 | Audi R8 LMS EVO II 2022 | 32:27.551 | +1:03.787 |
11th | 2 | 白川 有輝 | McLaren 720S GT3 | 33:01.109 | +1:37.345 |
12th | 14 | 柳瀬 大生 | McLaren 720S GT3 | +1周 | – |
13th | 11 | 篠坂 咲太 | McLaren 720S GT3 | +2周 | – |
14th | 5 | 南部 勇樹 | Mercedes-AMG GT3 2020 | +3周 | – |
15th | 3 | 野島 俊哉 | Aston Martin AMR V8 Vantage GT3 2019 | DNF | – |
圧倒的な実力差を見せつけ、1発勝負の選考会で代表の座を掴んだ武藤選手。
レース中には解説の山中選手から「武藤選手はかなり綿密に準備してきている」というコメントがあるほど、予選、決勝と武藤選手の独壇場だった。
しかし、レース後インタビューで衝撃の事実が判明する。
「どの程度準備したのか?」という鈴木氏の問いに対する武藤選手の答えは「開催が発表されてから初めてダウンロードをしたのでプレー期間は2週間程度」。
eモータースポーツで数々の実績を残してきた選手ではあるものの、わずか2週間のプレーで日本のトップドライバーにこれだけの差をつけての勝利というのは驚きだ。
世界大会の開催は2022年10月26日から30日。
これだけの期間があれば、武藤選手ならさらに腕を上げて臨むのは間違いない。
JEGTとはリーグが異なるが、日の丸を背負った日本代表として、フランス・マルセイユで世界を相手に躍動する武藤選手に期待したい。